灰色の深夜



深夜0時、テーブルの上の携帯電話は鳴らない。わかっていたはずなのにこんなにも虚しいのは、少なからず期待していたからなのだろうか。

テーブルの上、窓辺から差し込む月明かりに見慣れた銘柄の煙草が照らされる。杉内さんが難しい顔をしてこの煙草を吸う、その横顔と匂いがたまらなく好きだった。今夜会えないのなら、せめてその香りだけでも感じたいと思った。でもわたしの肺深くに吸い込まれたのは、ただの煙でしか無かった。



(…わたしが煙草を吸ったと言ったら、杉内さん怒るのかな)

それとも、子供の真似事だと笑うのだろうか。

(…怒っても笑ってもいいから、会いたいよ)

苦いだけの煙はちっとも美味しくなくて、新品の灰皿に放置されたそれは灰を長く伸ばしていた。深夜の濃紺に、灰色の煙が溶け出していた。





 (お題:灰色の深夜 / 制限時間:15分)