希う
後悔したところで何が変わる訳でもない。何なら、この運命の上にいなければ、俺は後悔することすら無いままに死んでいただろう。
同じ空間の中にあっても、煌びやかな晴れ舞台は遥か遠く、歓声も音響も別世界のように遠く思える。獲物を投げ出したままぼんやりと彼方を見つめれば、暗闇に浮き上がる小さな無数の光が滲んで見えた。俺は視線を舞台に向けたまま、立てた肩を抱えるように体を丸めた。
今、俺は笑えるほど嘆いているし、死ぬほど悔いている。しかし何も変わらない。過去に戻れたとして、何かが変えられる訳でもない。ともすれば、俺には悔いる権利すらないのかもしれないし、嘆く権利すらないのかもしれない。…ただ、二つ。
…兄貴。もっと早く出会いたかった。
兄貴を裏切った事、きっと俺は死んでも後悔しきれません。
…さん。もっと早く出会いたかった。
例えあなたが見ていたのが本当の俺ではないとしても、
俺はまぎれもなく、あなたとの時に一片のささやかな幸せを見た。
――それは、まぎれもなく。
膝を抱えていた手のひらをゆるりと開けば、歳月と共に刻まれた曲線だけがやけに空虚だ。人を殺め、人を求め、人を愛したこの手は、もう何も語らない。
そっと手を伸ばし、ゆっくりと獲物を拾い上げる。もう、これで最後だろう。この手はもう、何を手に入れることもない。誰を傷つける事もない。これで、終わる。
後悔したところで何が変わる訳でもない。何なら、この運命の上にいなければ、俺は後悔することすら無いままに死んでいただろう。
閉じた瞼の裏に、最後に会った日の彼女の笑顔がやけに鮮明に蘇る。俺はまぎれもなく、彼女との時に一片のささやかな幸せを見た。繰り返すほどに鮮やかなその笑顔に色濃くなる絶望に、小刻みに震える唇の端が笑った。