触れる、二つの



男の人から指輪を貰ったのは、初めての出来事だった。城戸さんは「俺と揃いなんで」と照れ臭そうに笑うと、ワイシャツの胸元からチェーンにぶら下がった同じモチーフの指輪をちらりと覗かせた。「仕事の日は、流石にこっちは厳しいっすけど」そう言った城戸さんが掲げたのは確かに左手だったけれども、彼がこの指輪に選んだのはわたしの右手の薬指だった。目を丸くするわたしに、城戸さんは照れ臭そうに頭を掻きながら笑った。

「いつかは、もっといいやつ選べるようになりますんで」








城戸さんのアパートまで数十メートルの距離に差し掛かった辺りで、城戸さんの武骨な指がさりげなくわたしの左手の指に触れる。いつものように絡ませようとしたその指と、わたしの指のリングがぶつかってこつんと音を立てた。城戸さんは少し驚いたように目を丸くすると、軽く握ったままわたしの指を覗き込む。そしてわたしの左手の薬指に指輪があることに気付くと、驚いたように目を見開いたまま言葉を呑んだ。わたしは背の高い城戸さんを見上げたまま、少し笑って口を開いた。

「こつんって、指輪がキスしたみたいですね」
「…、はは」

わたしの言葉に、城戸さんはまだ驚いた表情のまま口元だけ少し笑うと、左手で頭を掻く。そして、幸せそうに笑った。




 (お題:2つの接吻 / 制限時間:30分)