赤い糸は路地へ消える



「じゃあ、俺はここで」

雑居ビルの立ち並ぶ通りの曲がり角で、谷村さんはそう言ってポケットから手を出して軽く掲げた。金曜日の21時過ぎの天下一通りは、飲みの二次会に向かうサラリーマンで溢れている。酔っ払いの笑い声を背中に聞きながら、俺は谷村さんを見つめる。その表情はいつもと同じようでいて、しかしどこか楽しげでもあった。

「この後は、恋人とデートの約束でも?」
「残念だけど、約束はしてないな」

そう言って笑う谷村さんの眼差しは、言葉とは裏腹に楽しげだ。「はぁ」と襟足を撫でながら相槌を打つと、谷村さんの言葉が続いた。

「今晩は会わないな」

やっぱり言葉とは裏腹に、その表情はどこか楽しげだ。そんなことを言いながら、きっと奴は恋人と会うのだろう。俺は漠然と思っていた。その小指には運命の赤い糸が、俺の知らない谷村さんにとっての幸せな場所へ繋がっている。




 (お題:ひねくれた性格 / 必須要素:奴の小指 / 制限時間:15分)