初恋
生きてきた時間は彼よりもわたしの方が短かったし、あらゆる面において新井さんは“大人”の男性だった。実際の年齢差以上に、新井さんはわたしにとって遠い存在だった様にも思う。彼がわたしの前から姿を消して、そしてやっとその違和感の正体も理解した。
『 』
いつだって、新井さんはわたしに決して優しかった訳じゃない。でも、最後に会った日に彼がわたしに残したのは、冷たく残酷な言葉だった。いつもと変わらない端正な顔と、透き通る低い声が、現実をわたしに突きつけていた。でも、新井さんはあの時、わたしの目を見ていた。驚くほど冷たく、鋭く、――そして、真直ぐに。
生きてきた時間は彼よりもわたしの方が短かったし、あらゆる面において新井さんは“大人”の男性だった。実際の年齢差以上にその距離は離れていて、傍にいても新井さんはわたしと違う世界を見ているような気がしていた。しかし、そんなわたしでも解る事がある。
(…やさしい嘘だ)
新井さんにとっては、生きてきた時間が短いわたしにはまだ長い未来があって。そして、新井さんが描いたわたしの未来には、新井さんの姿はきっと無いのだろう。
(――って、言い聞かせてたんでしょ?)
いつだって、新井さんはわたしに決して優しかった訳じゃない。でも、最後に見た新井さんの表情は、あまりにも真直ぐで、そして静かだった。新井さんに真直ぐ見つめられたのは、初めてで。あの眼差しが今も消えず、わたしの胸に影を落とした。
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