対岸の彼女
“次はいつ会える?”
――俺の傍らで静かに寝息を立てている彼女も、本心はそう訊きたい筈だろう。惚れた女に我が侭一つ言わせることのできない己の甲斐性のなさは、痛いほど感じている。
寝台から降りれば、上質な赤い絨毯が裸の足裏を柔らかく舐める。ゆっくりと足を踏み出すたびに寝台は遠ざかり、大きな寝台で一人寝息を立てている彼女が、まるで赤い河を隔てた対岸にいるかのようかに思える。
(次はいつ会える?)
――その答えが知りたいのは、俺だって同じだ。
部屋の扉のドアノブに手をかけて、最後に一度だけ寝台を振り返る。そこには確かに彼女の呼吸と、ぬくもりがあった。あと数秒でも長く見つめれば離れられなくなりそうで、そっと視線を扉へ戻す。背中に広がる赤い河の向こうに残るぬくもりを感じながら、溜め息を吐いた。
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