柔らかなリアル

 

白い月の浮かび上がる夜、あなたと共に歩く。戯れる様に自分の手に絡んできたその手を思わず制すると彼女が悲しい顔で怒ったので、思わずその手を自分から取った。驚いて目を丸くして、恥ずかしそうに俯いて、照れた様に黙り込む。初めてみるその仕草が少し意外で、彼は僅かに目を丸くした。二人とも、何となく黙り込んでいた。彼女が繋いだ手をわざと大きく振った。本当は触れてはならない、このやわらかくてやさしいてのひら。今ここにある事がまるで夢の様だと思った。
砂を踏む二人の足音だけが静寂に響く。二人とも一切の言葉を口にしなかった。辺りを吹く風は生温い。1,2,3歩と歩いた所で彼女のやわかかなてのひらが自分のてのひらを少しだけきつく握るのを感じた。周泰も何となく、握り返す。それではますます恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに俯いた。

「周泰、どういう意味かわかっててそういう事するの?」
「…?」
「そんな事されたら誤解しちゃうよ、私…」

どうにも彼女の言う事は時々理解できない。
周泰は訝し気な視線を真直ぐに彼女に投げかける。は彼のあまりにも疎いその表情が逆に恥ずかしくて、「そんなに見ないでよ」とその頬をぐっと退けた。彼女の考える事は本当によくわからない。彼はまた彼女を見つめたが、すぐに目を逸らした。
周泰の大きな手の平、甘えない様に甘えてみる。もう二度と握る事はないかもしれないその固くて乾いた手の平、そっと自分の手を重ねてみる。ああ、何と暖かくて暖かい。幸せの塊。

 

20030728